ぐっすり眠れていますか?「夜間頻尿」の正体と、すっきり快眠を取り戻す秘訣!
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ぐっすり眠れていますか?
「夜間頻尿」の正体と、すっきり快眠を取り戻す秘訣!
こんにちは!上田診療所 院長の上田です。皆さん、夜中に何度も目が覚めてトイレに行く…そんな経験はありませんか? 「夜間頻尿」は、実は多くの方が抱えているお悩みで、良質な睡眠を妨げ、日中の生活の質(QOL)にも大きく影響します。
「年のせいだから仕方ない」と諦めてしまう方もいらっしゃるかもしれませんが、ちょっと待ってください! 夜間頻尿には様々な原因があり、その原因を見極めて適切なケアをすることで、ぐっすり眠れる夜を取り戻すことができるんです。今回は、そんな夜間頻尿について、前回に引き続き詳しく解説していきます!

「夜間頻尿」ってどんな状態?
一般的に、夜間頻尿とは就寝中に排尿のために1回以上起きなければならない状態を指します。特に2回以上となると、睡眠の質が低下し、転倒や骨折のリスクも増えることが報告されており、治療の対象となることが多いです。

夜間頻尿、その背景にある「犯人」たち!
夜間頻尿の原因は一つではありません。いくつかの要因が単独、あるいは複雑に絡み合って起こることが多いのです。主な「犯人」は次の4つのタイプに分けられます。
夜中に尿がたくさん作られる「夜間多尿」
これは、夜間に体の水分が過剰に尿として排出されてしまう状態です。欧米では夜間頻尿の原因の約76~88%を占めるとも言われており、まさに「夜間頻尿の治療は夜間多尿の治療」と言えるほど重要なタイプです。
夜間多尿の背景には、心不全や慢性腎臓病、睡眠時無呼吸症候群といった全身性の病気が隠れていたり、下肢のむくみ(浮腫)が関係していることもあります。また、年齢とともに尿量を調整するホルモン(抗利尿ホルモン)の分泌が減ってしまうことも一因です。

膀胱の貯める力がダウン!「膀胱蓄尿障害」
膀胱がうまく尿を貯められなくなる状態です。これには大きく2つのパターンがあります。
膀胱自体の容量が減ってしまっている場合:
例えば、「過活動膀胱(OAB)」が代表的です。これは、急に強い尿意を感じて我慢できない「尿意切迫感」を主な症状とし、通常は昼夜問わず頻尿や夜間頻尿を伴います。膀胱が勝手に収縮してしまう「排尿筋過活動」が原因のこともありますが、過活動膀胱の患者さんの半数以上では尿流動態検査で排尿筋過活動が確認されない場合もあります。
残尿が多くて、実際に使える膀胱の容量が減ってしまっている場合:
男性に多い「前立腺肥大症(BPH)」がその代表です。肥大した前立腺が尿道を圧迫して尿の通り道を狭くするため、膀胱に残尿が残り、結果として次に貯められる尿の量が減ってしまいます。前立腺肥大症が原因で、膀胱が過剰に伸びたり、高い圧力で排尿を強いられたりすることで、先ほど説明した過活動膀胱の症状を誘発することもあります。
他にも、女性に多い「骨盤臓器脱(POP)」や、膀胱の痛みと頻尿を伴う「間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(IC/BPS)」なども、膀胱蓄尿障害を引き起こす原因となります。

意外な盲点?「睡眠障害」
「夜中にトイレに行きたいから目が覚める」のではなく、「眠りが浅いから目が覚めてしまい、そのついでにトイレに行く」というケースも少なくありません。睡眠の質が悪いと、ちょっとした尿意でも目が覚めやすくなるのです。

循環器疾患の関与
心臓や血管の病気が夜間頻尿に関わっていることもあります。特に心不全などでは、日中に下肢に溜まった水分が、夜横になることで血管内に戻り、尿として排出される量が増えることがあります。
「夜間頻尿」との賢い付き合い方:今日からできること&最新治療
夜間頻尿の原因は多岐にわたります。まず患者さんの生活習慣や症状を詳しくお伺いし、必要に応じて排尿日誌をつけていただくなど、原因の特定が重要です。
まずはここから!「行動療法」で体と生活を整える
薬を使わず、ご自身の生活習慣を見直すことから始める「行動療法」は、ほとんどリスクがなく、経済的でもあるため、すべての患者さんにおすすめの「一次治療法」です。複数の方法を組み合わせることで、より効果が高まります。
水分の摂り方、タイミングの工夫
- 夜間多尿の最も大きな原因の一つは、水分の摂りすぎです。
- 1日の飲水量の目安は、体重の約2%程度(例:体重60kgの方なら1.2L)。
- または、24時間尿量が1500mLになるよう調整すると良いでしょう。
- 就寝前のカフェインを多く含む飲み物(コーヒー、エナジードリンクなど)は利尿作用や覚醒作用があるので避けましょう。
- 適切な飲水量を意識するために、排尿日誌(排尿回数、排尿量、飲水量を記録するシート)をつけてみると、ご自身のパターンが見えてきます。

「減塩」は快眠への近道!
塩分の摂りすぎは、夜間多尿と深く関係しています。慢性的な塩分過剰摂取は高血圧や腎機能障害にもつながります。塩分を控えることで、夜間の排尿回数や尿量が減少することが報告されていますよ。循環器疾患がある方では、減塩によって夜間排尿回数が1~1.5回程度減少したという報告もあります。
「適度な運動」がカギ!
夕方から就寝前までに30分程度の軽いウォーキングがおすすめです。日中に足に溜まった水分を血管内に戻し、尿として排出を促すことで、夜間の尿量を減らす効果が期待できます。また、運動はストレス軽減や睡眠の質の向上にもつながり、尿意による目覚めを減らす可能性があります。
排尿日誌のススメ
ご自身の排尿のパターンや飲水量と症状の関連性を知るために、排尿日誌は非常に有効です。当院でも、患者さんに継続的に記録をお願いすることがあります。
アプリも活用!
最近では、飲水量や食生活を記録し、アドバイスも受けられるスマートフォン用アプリなどもあります。無理なく生活改善を続けるために、このようなツールを活用するのも良い方法です。
頼れる「薬の力」:夜間頻尿治療薬の解説
行動療法だけでは改善が難しい場合や、原因疾患がはっきりしている場合は、お薬の力を借りることで、より効果的に症状をコントロールできます。

1. 「膀胱蓄尿障害」を改善するお薬
過活動膀胱や前立腺肥大症による膀胱蓄尿障害に対して用いられる薬です。
抗コリン薬
膀胱の過剰な収縮を抑えて、尿を貯める機能を改善します。これにより、尿意切迫感や頻尿、夜間頻尿を和らげ、睡眠の質も改善することが報告されています。
主な薬剤としては、ソリフェナシン(ベシケア®など)、イミダフェナシン(ウリトス®、ステーブラ®など)、フェソテロジン(トビエース®など)があります。
イミダフェナシンは夜間頻尿に関するエビデンスが多く、半減期が比較的短いため、夜間頻尿が主な症状の方には就寝前や夕方の服用のみで効果が見られることもあります。
注意点としては、口の渇きや便秘などの副作用が出ることがありますが、最近では副作用が少ないβ3作動薬も登場しています。
β3アドレナリン受容体作動薬
膀胱の平滑筋にあるβ3受容体に作用し、膀胱をリラックスさせて尿を貯めやすくします。
このタイプのお薬は、抗コリン薬でみられる口の渇きなどの副作用がほとんどないのが特徴です。
特に、高齢の患者さんでは認知機能への影響が少ないため、第一選択となることが多い薬剤です。
主な薬剤は、ミラベグロン(ベタニス®など)やビベグロン(ベオーバ®など)があります。どちらも夜間頻尿の改善に効果が報告されています。
男性向け:α1アドレナリン受容体遮断薬
前立腺肥大症の男性に処方されるお薬です。前立腺や尿道の平滑筋を緩めることで、尿の通りを良くし、排尿困難だけでなく、夜間頻尿の改善にも一定の効果が期待できます。
主な薬剤は、タムスロシン(ハルナール®など)、ナフトピジル(フリバス®など)、シロドシン(ユリーフ®など)です。
副作用として、立ちくらみ(起立性低血圧)や射精障害(逆行性射精)などがありますので、気になる場合はご相談ください。
男性向け:PDE5阻害薬
前立腺肥大症に伴う下部尿路症状の改善にも用いられる薬剤です。
タダラフィル(ザルティア®など)がこれに該当します。
夜間頻尿の項目では改善がわずかという報告もありますが、全体的な排尿症状の改善に寄与します。
男性向け:5α還元酵素阻害薬
前立腺を縮小させることで、前立腺肥大症の症状を改善します。
デュタステリド(アボルブ®など)が代表的です。
効果が出るまでに約6ヶ月かかりますが、長期的に前立腺を小さくする効果が期待できます。性機能障害の副作用や、PSA(前立腺特異抗原)値への影響があるため、服用中は定期的な検査と医師の管理が重要です。
2. 「夜間多尿」に特化したお薬:低用量デスモプレシン
2019年に日本で発売された、夜間多尿による夜間頻尿の治療薬です。これは、体内で作られる抗利尿ホルモン(バソプレシン)と同じ働きをする合成ペプチド製剤です。
どうやって効くの?
腎臓に作用し、夜間の尿の生成を抑えることで、夜間頻尿を改善します。半減期が短く、夜間のみ数時間の効果なので、寝る前に服用するのが一般的です。
使用上の注意点
- 日本では男性のみに適応が認められています。
- 腎機能が低下している方、低ナトリウム血症の方、心不全の方、利尿薬やステロイドを服用中の方など、服用できないケースがあります。特に高齢者の方では腎機能低下が見受けられることが多いので、必ずチェックが必要です。
- このお薬を服用中は、血中のナトリウム値のチェックが非常に重要です。稀にナトリウム値が下がりすぎることがあるため、当院では定期的な血液検査で安全を確認しながら処方しています。
どんな効果があるの?
日本の臨床研究では、低用量デスモプレシンを服用した患者さんで、夜間排尿回数が約1~1.7回減少し、夜間尿量も有意に減少したことが報告されています。また、寝てから最初の排尿までの時間が長くなり、最初の排尿量が増えるといった効果も見られています。高血圧や前立腺肥大症、過活動膀胱を合併している方でも、この薬が有効かつ安全であると示されています。
おわりに
夜間頻尿は、単なる排尿の症状だけでなく、睡眠不足からくる日中の倦怠感、転倒のリスク、さらにはご家族の負担にもつながる、生活の質を大きく損なう問題です。
夜間頻尿の背景には、隠れた病気が見つかることも少なくありません。ぐっすり眠れる毎日を取り戻しましょう。