耐性菌
- 産業医
感染症の話
先日、「医療安全講習会」というものに行って来ました。
今回の話は「医療関連感染症」です。
主な内容は
「抗生物質」
です。
傷や肺炎などに使う抗生物質、日本では戦後から自由に使うことができるようになりました。
それによって重症感染症はかなりコントロールされてきたわけですが、最近は抗生物質が多用されるために弊害が出てきたという話です。
抗生物質が効かなくなる「耐性菌」という性質の悪い菌が出てくるという話に続きます。
抗生物質を必要以上に使うとこの「耐性菌」が体の中に出来てしまい、その菌を周囲に拡散してしまう結果を招くそうです。
有名なところでは「MRSA」という菌を聞いたことがあると思います。
メチシリン(M)耐性(R)ブドウ球菌(SA)です。
メチシリンという抗生物質に耐性をもったブドウ球菌という意味です。
これと同じような構造でいろいろな抗生物質に耐性を持った菌が出来始めています。
そして今やすべての抗生物質に耐性を持つようなスーパーバクテリアも出てきつつあります。
世界保健機構(WHO)はついに
「お願いだから、もうこれ以上無駄に抗生物質を使わないで!!」
というメッセージを出しました。
抗生物質が効かない菌が世界中にはびこると、人類は菌に対して太刀打ちできないからです。
実は、抗生物質は人間だけでなく動物にも使われているという事実はあまり知れらていません。
私たちの口の中に入ってくる食肉、この動物たちに抗生物質が使われているということです。
さあ、いったいどれくらいの抗生物質が動物たちに使われているのでしょうか?
全世界の抗生物質の1/3が人間に使われていて、2/3が動物に使われているそうです。
私も知りません出でしたが、考えを新たにしたところです。
抗生物質が効かなくなる菌(耐性菌)の対策を考える際には医師だけではなく「獣医師」も重要なプレーヤーになってきます。
One Health ということが言われ始めました。
これは人間も動物も耐性菌のことを考え、医師と獣医師が共同作業をして対応しようという動きのことです。
これら動物の中に「耐性菌」が出来、それを人間が口の中に入ってくると思うと、その先はどうなるのかが心配になります。口の中に入ると腸に入っていくのですが、腸の中にはもともと細菌が居ます。
私たち人間の中の腸内細菌はどうなっているのでしょうか?
常に腸の中にいる菌を「常在菌」とよんで居ます。
これには「大腸菌」「エンテロバクター」「クレブジエラ」「セラチア」などがあり、これらはもともと居る菌ですので問題は無いです。
時々出てくる菌で「赤痢菌」「サルモネラ(チフス菌、パラチフス菌)」「ペスト菌」)などがあり「非常在菌」とよばれています。
この「非常在菌」が耐性化すると困ったことになります。
腸内細菌が耐性化すると厄介なことになり、今はカルバペネムという抗生物質に対して耐性を獲得した
CRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)が問題になっています。ほとんどの抗生物質も効かないといわれている菌で、最近日本でも確認され、抗生剤が効かずに患者さんはなくなっています。
このCREという菌を持っている患者さんの周囲の汚染状況を調べた結果が海外の医学雑誌に載っていて、
患者さんの「枕」「股」「足」「ベッドテーブル」から多くの菌が検出されたそうです。
となると、知らないうちに耐性菌を持っていると、枕に耐性菌が移ってしまう、ということになります。
これは私たち周囲で起こりえる話です。
風邪は殆んどはウィルス感染で、ウィルスには基本的には抗生物質は効きません。
抗生物質は細菌感染に効くものなので、風邪の際に抗生物質をむやみに内服するのは、慎んでいきたいところです。
耐性菌を増やさないで!、WHOの悲痛なお願いが聞こえてくるようです。