少し詳しい「糖尿病診療マニュアル2024年版」
- 糖尿病
糖尿病診療マニュアル2024年版では、最新の診断基準や治療方針がまとめられています。以下に簡単に要点を説明します。
🔵診断基準の更新:
血糖値やHbA1c(ヘモグロビンA1c)の値を使った診断が基本です。空腹時血糖値126 mg/dL以上、またはHbA1cが6.5%以上の場合、糖尿病と診断されます。
🔵治療目標:
血糖コントロールが中心です。HbA1cの目標値は、合併症予防では7.0%未満ですが、患者さんの年齢や生活習慣、合併症の有無に応じて調整されます。目標は合併症の予防と健康寿命の延長です。
🔵食事療法と運動療法:
食事と運動が糖尿病管理の基本です。カロリー制限、炭水化物の管理、適度な運動を続けることが推奨されています。
🔵薬物療法:
インスリンや経口血糖降下薬(SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬など)を使用します。患者さんの病状やライフスタイルに応じて、薬の選択が行われます。
🔵合併症の管理:
糖尿病は網膜症や腎症、神経障害、心血管疾患など多くの合併症を引き起こすリスクがあるため、定期的な検査と管理が重要です。
🔵患者教育とサポート:
患者さんが自分の病気を理解し、自己管理できるようにサポートすることも重要です。
糖尿病治療における薬物療法の使い方は、患者さんの病状や治療目標に応じて段階的に進められます。
1. 生活習慣改善の指導
薬物療法を始める前に、まずは食事療法と運動療法を試みます。
これにより血糖値をコントロールできる場合も多くあります。約3か月間、生活習慣の改善に取り組んで、それでも血糖コントロールが不十分な場合に薬物療法を開始します。
2. 第一選択薬:メトホルミン
初期治療として、ほとんどの場合メトホルミンが使われます。
この薬は、肝臓からの糖の放出を抑え、インスリンの効き目を高める作用があります。
一般的には、1日2回服用し、胃腸の副作用(下痢や吐き気)がある場合は少量から始め、徐々に増量します。
3. 追加薬物療法:経口血糖降下薬
メトホルミン単独で効果が不十分な場合、次のような薬を追加します。
🔵SGLT2阻害薬:
腎臓から余分な糖を尿として排出する薬。体重減少や血圧改善効果も期待できます。
🔵DPP-4阻害薬:
インスリン分泌を促進し、血糖値を下げる薬。食後の血糖上昇を抑えます。
🔵GLP-1受容体作動薬(内服薬・注射薬):
食欲を抑え、インスリン分泌を増やします。体重減少効果もあり、特に肥満を伴う患者さんに有効です。
4. インスリン療法
経口薬が十分に効果を発揮しない場合、または急激に血糖コントロールが必要な場合はインスリンを追加します。以下のように進めます。
🔵基礎インスリン:主に夜間に使うタイプ。長時間作用し、空腹時の血糖値を安定させます。
🔵追加インスリン:食後の血糖値をコントロールするため、食事ごとに短時間作用するインスリンを使用します。
5. 血糖モニタリング
薬物療法を始めたら、自己血糖測定が重要になります。朝の空腹時や食後に測定し、薬の効果や治療目標の達成度を確認します。
6. インスリン治療の調整
インスリンを使い始めたら、血糖値に応じてインスリンの量を調整していきます。
主治医や医療チームの指導のもと、次のようなステップで進めます。
🔵空腹時の血糖値を基準に、基礎インスリンの量を徐々に増減します。目標とする空腹時血糖値は、通常100~130 mg/dL程度です。
🔵食後の血糖値を確認し、追加インスリン(速効型インスリン)の量を調整します。食事の量や内容に応じて、インスリンの量を変えることが必要です。
🔵低血糖のリスクがあるため、症状(めまい、発汗、震えなど)が現れた場合はすぐに糖分を補給します。また、頻繁に低血糖になる場合はインスリンの量を減らす必要があります。
7. 合併症予防のための薬物療法
糖尿病は血糖値の管理だけでなく、合併症の予防も重要です。そのため、次のような薬も併用することがあります。
🔵降圧薬(ACE阻害薬、ARB):高血圧がある場合、腎臓や心臓を守るために使用されます。
🔵脂質異常症治療薬(スタチン):動脈硬化や心筋梗塞のリスクを減らすため、コレステロール値を下げる薬を使用します。
🔵抗血小板薬(アスピリン):心筋梗塞や脳卒中のリスクが高い場合、血栓の形成を防ぐために使用されることがあります。
8. 治療効果のモニタリング
治療中は定期的に検査を行い、治療が効果的かどうかを確認します。特に以下の項目が重要です。
🔵HbA1c(ヘモグロビンA1c):過去2~3か月の平均血糖値を示す指標で、通常は1-2か月ごとに測定します。治療の目標はHbA1cを合併症予防では7.0%未満にすることですが、個々の患者さんによって調整されます。
🔵腎機能や網膜検査:糖尿病性腎症や網膜症などの合併症がないかをチェックするため、定期的に検査が必要です。
9. 教育と自己管理
糖尿病治療において、患者さん自身が病気を理解し、自己管理できることが非常に重要です。
次のようなポイントを含む、教育プログラムが推奨されています。
🔵薬の正しい使い方:特にインスリンを使っている患者さんは、注射の仕方やタイミングをしっかり理解する必要があります。
🔵食事の管理:食事の内容やタイミングを把握し、適切な炭水化物の摂取量を守ることが血糖コントロールに直結します。
🔵低血糖への対応:低血糖が起きたときの対処法をあらかじめ理解しておき、必要な糖分(ブドウ糖など)を常に携帯することが勧められます。
10. 定期的なフォローアップ
糖尿病は長期にわたる管理が必要な病気ですので、定期的な診察やフォローアップが不可欠です。
医師と相談しながら、薬の効果や生活習慣の見直しを定期的に行うことで、合併症を予防し、より良い生活の質を維持できます。
薬物療法は患者さんごとに異なるため、主治医としっかり相談しながら進めることが大切です。