インスリンを始める
- 糖尿病
今回は糖尿病のインスリン療法についてお話ししようと思います。
血糖のコントロールがよほど悪くなると医師からインスリン療法を勧められることがあります。
さて、ここで皆さんはこんなふうに考えるのではないでしょうか。
「インスリン治療を始めたら二度と止められない」、
「お腹に注射なんて痛そう」、
など。
確かに、今からかなり昔は、インスリンを始めたら一生インスリンを打ち続けると言うことが行われていました。
ただ今ではそのような事になる前に早期にインスリン治療を始めてインスリン療法から離脱していく治療法が確立されています。
まず1番大切な事は、インスリンを作っている膵臓の機能を温存させると言うことです。
膵臓に厳しい仕事を長年させ続けていると、早晩膵臓は機能しなくなってきます。
そのような状態になると、外からインスリンをずっと補充しなければ血糖を正常に維持することができなくなります。
そのような状態まで放置しておくとインスリンを継続的に使うと言うような状況に陥っていきます。これが昔よく行われていた治療法です。
これが今でも都市伝説のように語り継がれていると私は思っています。
さて、そうならないようにするには、早い段階で膵臓を休ませる必要があります。
そのためのインスリン療法です。
もうお分かりと思いますが、早くインスリンを使って膵臓を休めれば、早く膵臓が回復して正常な血糖コントロールを取り戻すことができると言う話です。
ただ冒頭でお話ししたような、都市伝説化した「一生インスリンを使う」と言う話や、「自分でお腹に針を刺す痛みを想像するとインスリン治療に二の足を踏んでしまう」と言う方が多いと思います。
インスリンの自己注射に関しては、皆さんが健康診断などで採血の際に使われる注射針に比べて非常に細い針を使いますのでほとんど痛みを感じません。針の太さで言えば髪の毛二本ほどの太さと考えていただいて良いと思います。
ではどのような状況でインスリンの治療を医師から勧められるのでしょうか?
私は口から飲む糖尿病の薬を3種類上を使っても十分な血糖が下がらない場合にインスリンの治療を勧めています。
ここで言う十分な血糖のコントロールとは、65歳未満であればHbA1cが7.0%未満、65歳以上であれば7.0%から8.0%未満を指しています。
インスリンは、まず1日1回注射の製剤を使います。今まで飲んでいたお薬は原則そのまま飲み続けていただきます。
インスリンは低血糖を起こさないように少ない量から始めていきます。
必要に応じて1日2回のインスリン、1日3回のインスリン等と増えていく場合もありますが、早期にインスリンを使い始めた場合にはインスリンの減量は可能です。
最終的にインスリン4単位でHbA1cが7%前後に回復すれば経口薬に移行の準備をします。
何度も繰り返しますが、早めにインスリンを使い始めて、膵臓が回復するのを待ちインスリンの量を減らして内服薬のみに戻すと言うのが基本です。
面白いデータがあります。
インスリン治療を導入するタイミングはいつか?と言う質問を医師したところ、
もし自分が患者だったら:HbA1cが8.2%
担当の患者には :8.7%
と言う回答でした。
反対に
患者さんに担当医からインスリン治療を勧められタイミングは?
と聞くと
9.6%
でした。
おそらく医師には、患者さんがインスリン療法を躊躇するだろうと言うバイアスがかかっているために、できるだけギリギリの線まで待とうと言う判断をしている状況かと想像します。
この点は、私たち医療従事者も適切な情報提供して医師が持っているインスリン治療への抵抗感を払拭する必要があると感じています。
一昔前に比べてインスリンはじめとする注射製剤もいろいろな種類のものが揃っています。
持続時間、効き始める時間帯、心臓血管保護作用の有無、などいろいろな選択肢があります。
健康診断でHbA1cが少なくとも8.0%以上ある方はぜひご相談ください。