自分に合った食事療法 糖尿病
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糖尿病と言われたら、まず食事!
~あなたに合った食事療法をステップで~

こんにちは、上田診療所 院長の上田です。
当院では、日々多くの患者さんと向き合っていますが、特に糖尿病は、日本の国民病とも言えるほど患者さんが多い病気です。糖尿病の治療には様々な方法がありますが、何よりも基本となるのが「食事療法」です。
「食事療法」と聞くと、「あれもダメ、これもダメ」と難しく考えたり、毎日の食事が味気なくなってしまうのでは、と不安に思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、最近の糖尿病食事療法は、昔に比べて多様な選択肢が認められるようになり、一人ひとりのライフスタイルや価値観に合わせた柔軟なアプローチができるようになっています。
今回は、最新のガイドラインも踏まえながら、糖尿病の食事療法について、分かりやすくステップ形式でご紹介したいと思います。
糖尿病食事療法、昔と今
少し歴史を振り返ってみましょう。かつて、日本の糖尿病食事療法では、総エネルギー摂取量を制限する「エネルギー制限食」が治療の基本中の基本とされていました。これは、エネルギーを摂りすぎると血糖や体重が悪化するという考えに基づいています。
しかし、食事療法に関する様々な研究が進むにつれて、エネルギー制限だけでなく、糖質の量や質に着目した方法や、食後の血糖上昇を緩やかにする工夫なども、血糖コントロールに有効であることが分かってきました。
2024年5月に発行される予定の新しい日本の糖尿病食事療法ガイドライン「糖尿病診療ガイドライン2024」(JDS2024)でも、エネルギー制限を食事療法の中心としつつも、個人の病態や嗜好、ライフスタイルに合わせて、様々な食事療法を選択肢として検討できることが示されています。
あなたに合った食事療法を見つけよう:主な食事療法の種類
「自分にはどんな食事療法が合っているんだろう?」と思われるかもしれませんね。まずは、現在一般的に行われている主な食事療法の種類を知ることから始めましょう。
1.エネルギー制限食
<考え方>
性別や年齢、活動量などに応じた適正なエネルギー量(カロリー)を設定し、その範囲内で食事を摂る方法です。特に肥満がある場合に、体重を減らすことでインスリンの効きを良くする効果が期待できます。
<メリット>
体重減少に繋がりやすく、多くの研究でその効果が確認されています。
<デメリット>
厳密なカロリー計算が必要になる場合があり、外食や市販食で実践しにくいと感じる方もいらっしゃるかもしれません。また、極端な制限は継続が難しくなることもあります。
2.糖質制限食
<考え方>
ごはん、パン、麺類、お菓子、ジュースなどの糖質を多く含む食品の摂取量を制限する方法です。糖質は食後の血糖値を大きく上昇させるため、その摂取を抑えることで血糖コントロールを目指します。
<メリット>
食後高血糖を抑える効果が期待でき、HbA1cや体重の改善に繋がったという研究報告も複数あります。エネルギー制限に比べて満腹感を得やすいと感じる方もいるようです。
<デメリット>
糖質を極端に制限しすぎると、食物繊維などの栄養素が不足したり、脂質の摂りすぎになる可能性も指摘されています。長期的な安全性や効果については、さらなる検討が必要という意見もあります。
3.低GI食
<考え方>
食後の血糖値の上昇度合いを示す「GI値(グリセミック・インデックス)」が低い食品を積極的に選ぶ方法です。GI値が低い食品は、血糖値の上昇が緩やかになります。
<メリット>
食後高血糖を抑え、インスリン分泌の負担を軽減する効果が期待できます。例えば、白米より玄米、パンよりライ麦パンや全粒粉パンの方が一般的にGI値が低いとされています。
<デメリット>
GI値は調理法や他の食品との組み合わせによっても変化するため、単純にGI値だけで判断できない場合があります。また、GI値が低くても高エネルギーな食品もあるため、エネルギー摂取量にも注意が必要です。
これらの他にも、脂質の量や質に注目する脂質制限や、様々な方法を組み合わせた食事療法などがあります。
どの方法を選ぶかは、あなたの現在の体の状態(血糖値、HbA1c、合併症の有無など)や、普段の食習慣、ライフスタイル、そして「これなら続けられそう!」と思えるかどうかが非常に重要です。自己判断で無理な食事療法を行うのではなく、必ず医師や管理栄養士などの専門家とよく相談しながら決めるようにしましょう。
今日からできる!実践ステップ
あなたに合った食事療法の方向性が見えてきたら、いよいよ実践です。難しく考える必要はありません。まずは、今の自分の食生活を知ることから始めてみましょう。
ステップ1:自分の食生活を知る
まずは、数日間でいいので、普段食べているものを正直に記録してみましょう。食事内容だけでなく、量や時間、間食なども書き出すと、自分の食習慣の傾向が見えてきます。これが、あなたに合った食事療法を考える上での大切な第一歩になります。
ステップ2:食事の工夫を始める
記録した内容を振り返りながら、無理のない範囲で少しずつ食事の工夫を始めてみましょう。
●食べるものを選ぶ:
<控えたいもの>
菓子類、ジュース、果物、油、バター、マヨネーズなどは、エネルギーや糖質が多く、控えめにした方が良いとされています。
<積極的に摂りたいもの>
魚、野菜、きのこ、海藻、こんにゃく、きのこ類などは、食物繊維が豊富で血糖値の上昇を緩やかにする効果が期待できます。
●食べ方を工夫する:
<食べる順番>
野菜やきのこ、海藻類など、食物繊維が豊富なものから先に食べることで、食後の血糖値の急激な上昇を抑える効果が期待できます11。次にタンパク質、最後に炭水化物を摂るのが良いでしょう。
<よく噛んで、ゆっくり食べる>
早食いは血糖値を急激に上げやすいので、一口ごとに30回以上噛むことを目安に、ゆっくり時間をかけて食べるようにしましょう。食事時間は20分以上かけるのが理想です。
●量を意識する:
特定の食品だけでなく、食事全体の量も意識することが大切です。腹八分目を心がけましょう。
外食やコンビニ食についても、選び方のポイントがあります。メニューを選ぶ際に、野菜が多く含まれているか、揚げ物が多くないかなどを確認したり、定食形式で主食・主菜・副菜が揃っているものを選ぶなどが考えられます。
ステップ3:食事以外の生活習慣も見直す
糖尿病の管理は、食事療法だけではありません。
●運動:食後に体を動かすことで、食後高血糖を抑える効果が期待できます。ウォーキングなど、無理なく続けられる運動を見つけましょう。
●睡眠:十分な睡眠は血糖コントロールに影響することが分かっています。規則正しい生活を心がけましょう。
●ストレス管理:ストレスも血糖値に影響を与えることがあります。自分なりのリラックス方法を見つけましょう。
継続は力なり:続けるためのヒント
食事療法は、短期間で劇的な効果を出すものではなく、続けることが何よりも大切です。
●完璧を目指さない:
たまには外食を楽しんだり、好きなものを食べる日があっても大丈夫です。完璧にできないと落ち込む必要はありません。大切なのは、全体としてバランスの取れた食事を心がけることです。
●家族の協力:
可能であれば、家族に食事療法のことを理解してもらい、協力してもらうと続けやすくなります。一緒に健康的な食事を考えるのも良いでしょう。
●専門家と相談:
困ったことや分からないことがあれば、いつでも医師や管理栄養士に相談してください。一緒に解決策を考えていきましょう。
おわりに
糖尿病の食事療法は、決して「制限ばかり」ではありません。ご自身の体と向き合い、より健康的な食生活を送るための、前向きなステップです。
今日からご紹介したステップを参考に、あなたにとって無理なく、そして美味しく続けられる食事療法を見つけて、ぜひ実践してみてください。私たち医療者も、全力でサポートさせていただきます。
何かご心配なことや、もっと詳しく知りたいことがあれば、いつでもお気軽にご相談ください。
次回のブログもお楽しみに!